手前どものそば打ちは、朝最初に、一番熟練した職人さんがそば粉の試しごねをして、その日の水分の量を決めることから始まります。石臼で挽くそば粉は、仕上がった時や保存された状態などを反映して水分に微妙なばらつきがあります。季節や当日の天気でも変わります。ほんの少しの水分の差で風味や歯ごたえが変わってしまうのです。
信州そばは今や全国区ですが、昔のつくり方を守っているところは限りなく少なくなってきていると思います。手前どもは、信濃大町の駅前での創業時、1890 年はもちろん、1929年松本に分店してもからもずっと、湯練りで丸延し一本棒で打ち、そばの風味が生地の表面にも残り、茹でたときに本来の味が出ることを大切にしてきました。もっとさかのぼると、糸魚川から塩尻を結ぶ塩の道街道が通る、今では大町市になっている旧美麻村の農家の土間で、行き交う旅人にそばを提供したのが始まりと言いますから、本当の創業は、いつなのか定vかではありません。その辺りでは、昔は米や小麦は貴重で、信州そばは、農家の主婦が日々の食事として打っていたものなのですね。水練りで三本の棒を使って四角に延ばす江戸流と違います。
こばやしのそば粉は美麻のとなりの白馬村の岩岳で栽培された蕎麦が原材料です。蕎麦の栽培は、昼夜の気温差が大きく朝方に霧が発生しやすい高原地帯「霧下地帯」が適していると言われます。岩岳地区は標高も700m くらい、鎮守が霧降宮であることからも、まさに「霧下地帯」そのもので、最高の蕎麦が採れます。朝霧が、厳しい自然から蕎麦を守ってくれるのだそうです。玄蕎麦の皮をむいた丸抜きを石臼でゆっくり一回転挽きをしてそば粉をつくるのですが、一日回して
ても少ししかできません。速く石臼を回すと熱やけでそば粉の品質が落ちてしまうのです。手前どもが使う量だけでも、ほぼ毎日挽かなければ、間に合いません。そこで、秋に採れる玄蕎麦を雪むろで低温で保管し、一年間使うようにしているのです。できたそば粉は、冷凍で保存します。
そばの風味や歯ごたえ、そして味をお客さまにいつまでも楽しんでもらうためには、原材料の栽培から製粉、そば打ち、ご提供まで細心の気配りと精進をと心がけているのですが、結果、創業時と変わらずとなります。つゆの製法で大手の醬油を減らし、大久保さんの甘露醬油を加えたのも、大手の作る醬油の味が、昔と変わってしまったからです。二八そばで
あることも変えていません。
伝統を守ることが、風土に根差した美味しさの最上の答えだったからです。
藤村泰明(手打ちそば こばやし)
株式会社こばやし/信旬Project
〒390-0874 長野県松本市大手3丁目3-20
TEL 0263-32-1298
Copyrights shinyama-miz All Rights Reserved.