早すぎて、最初は受け入れてもらえなかったことも多かったのですよ。今から四半世紀前、全ての蔵が、端麗辛口に一辺倒だった時代に、私どもは、10人中2人が好んでくださる酒を作りたいと思い、しっかり熟成した無濾過の原酒を出したのです。日本酒本来の深みとキリッとした後味が伝わったのか、幸いにも受け入れてくれるお客さまがいらっしゃって、現在の福源の「無濾過原酒 生シリーズ」につながりました。最近では大きく様変わりをし、そういうお酒がもて囃されるのようになってきたのも、とても感慨深いです。
「北アルプス」のラベルのデザインもそうです。1990年代初めの日本酒級別制度が廃止になった時に、世界的な染色家の柚木沙弥郎さん(元女子美大学長)に作っていただいたのですが、日本酒たるもの酒名は墨文字で書くものが当然と皆さまに反対されお蔵入りになり、復活したのは数年前です。私どもがやりたかったことに、やっと時代が並んできたというか、世代が変わったのですね。飲む人もつくる人も。
私どもは、昔からこの安曇野という素晴らしい自然の恵みとともに酒造りをしたいという思いがあったので、1980年代の初旬から自社の田んぼで自然に優しい農法により酒米を作り始めていました。データで機械を管理して、ある一定の水準の酒造りをする今の潮流とは真逆かもしれませんね。契約農家など原材料の産地の顔が見えることも大切に考えてきました。テロワールとかトレースアビリティと呼ばれていることを40年以上も前から意識して続けてきたのです。寒づくりと言って一番寒い一月と二月の酒造りは、機械的に温度管理をしない私どものような蔵にとっては大変重要な仕事になります。人間がつくるものですから失敗するかもしれないですが、想像もできないほど良いものができることもあるのです。自然の大きな力が働くのです。
杜氏や蔵人も年間雇用しているのではなく、春・夏・秋は農業に従事している若ものたちに冬に杜氏や蔵人として蔵に入ってもらいます。その年の春・夏・秋のお天道さまの下で農業をやってきた人に酒造りに入ってもらうのは理想的な話で、冬の天候や自然もよく知って動くことができるのです。人間と自然の協働作業になるからです。
私どもは新酒という季節を売りものにしません。しっかり熟成し、ボディが太く味くずれしなくなったお酒を飲んでいただきます。米作りから始めて、麹造りの全てを手作業で行うなど自然にゆだねた酒造りをしているので中途半端に終えてしまうわけにはいかないのです。長い時間がかかった分、酒と料理が互いに引き立つ旨さを実現しました。
からだも自然の一部と感じられる至福のひと時を楽しんでください。
平林聖子(福源酒造)
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